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『これは恋ではない/ピチカート V』 [ピチカートファイヴ]

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おっと、ピチカートマニアの皆さん、
オハヨウゴザイマス コンニチハ。

今夜もピチカート V(敢えてこの表記で)。
前回ご紹介した『七時のニュース/皆笑った』と同時発売の7吋でありますところの、
2ndアルバム『ベリッシマ!』からのシングルカットの『惑星/これは恋ではない』。

1stアルバム『カップルズ』がソフトロック~ウェストコーストジャズ~イージーリスニングな白人的の陽性な響きなら、2nd『ベリッシマ!』は一転して、リズム&ブルース~ニューソウル~フィラデルフィア・ソウル~シカゴ・ソウルという、黒人的な陰りと憂いのある響きを湛えています。
これは偏にヴォーカリストの交代が大きいのです。
ウィスパーヴォイスの佐々木麻美子さんから、当時売出し中のバンドでパンクでサイケでニューウェイヴ系なバンドレッドカーテンの中心人物である気鋭、田島貴男さんへ。
1988年、一般的にまだ知名度が高いとは言えなかった当時22歳の田島さんに目を付けた小西さんの慧眼。
彼の若き天才ぶりが最初にメジャーフィールドで遺憾なく発揮されたのが『ベリッシマ!』でした。
例えるなら同年の6月、クロマティ選手の負傷により、急遽一軍に昇格しての対ヤクルト戦の第一打席でホームランを放った台湾の呂 明賜選手の如き活躍。
わっかるかなぁ、わっかんないだろうなぁ。

ヴォーカリストの交代だけでここまでサウンドが変わってしまうのは、ピチカートが元々はアマチュア時代に小西さんと高浪さんらが集まって活動していた作曲同好会が前身であったからで。
極めて裏方の、作家主義的なミュージシャンであり、筒美京平、宮川 泰、村井邦彦諸氏の系譜に当たる人たちなのでした。プロデューサー的資質の座付き作家の佇まい。
テクノポップ、ソフトロック、そして、
非常にエモーショナルな音楽である黒人音楽を次なる題材に選んだばかりにデヴュー間もないピチカートの変節漢ぶりを当時のミュージックマガジンで《仏作って魂入れず》とこき下ろされたのは災難でした。後の90年代以降に発揮されるピチカートのヴァ―サタイルで、ヒップホップのミュージシャンのような編集センスはまだこの時代は軽視されていたのでしょう。
少し時代が早すぎたのかも。
僕はこのアルバムを聴いてから、黒人音楽にのめり込みました。
こういう音楽ファンもいるのです。
小西さんがこの頃に音楽雑誌へ寄稿したコラムやレヴューやお勧めした数多くのアルバムやレコードにどれだけ影響を受けたことか。
90年代のフリーソウルやサバービアは言ってみれば小西さんの受け売りだった訳で。
小西さんの音楽への底知れぬ情熱、報われぬ怨念がピチカートファイヴなのだと思います。
外見(アートワーク)は非情にスマートでファッショナブルなピチカートだからこそ、その恨みは見えにくいですが、その偏愛に満ちた歪な問題作こそが『ベリッシマ!』なのだす。
だからこそ余計にこのアルバムが愛おしいのだす。

70年代終わり頃に大滝さんや達郎さんが雑誌やラジオで盛んに行われてた音楽の啓蒙活動を90年代に小西さんが引き継いでいたのですね。

と、前書きが長くなっちまいました。

まず取り上げたいのはB面の『これは恋ではない』、彼らのすべての楽曲で恐らく一番好きな楽曲。
別格の一曲。
アルバムではB面の4曲目。
哀しいハイライト。

作詞作曲は小西さん。
ピチカートファイブの音楽、というか小西さんの音楽の根源的なものがこの曲にあるように思えます。
この曲を聴くと落ち着きます。
と、同時に胸騒ぎがします。
初めて聴いたときもきっとそんな感じだったと思います。

日常生活に潜む諦観、厭世観、虚無感、絶望感がシリアスなR&Bサウンドに静かに沁みこんでいきます。
この曲から沸き立つ《もの悲しい》という感情。
《悲しい》のではなく、《もの悲しい》のです。
何となく悲しい、哀しいのです。
この曲の歌詞も、恋人との別れが綴られていますが、
その理由には触れられていません。
ひたすら悲しいです。

小西さんの非凡なソングライティングにドキドキします。
歌詞が素晴らしい。
僕が『ベリッシマ!』を知るきっかけになったのは確かワッツインというソニーから出ていた音楽雑誌で1989年か90年頃だったと思います。
邦楽の名盤みたいな紹介で音楽評論家の平山雄一氏がこのアルバムを取り上げられてました。特に歌詞に注目されてました。そのページに掲載されていたこのジャケットにも惹かれました。
批判的なスタンスを取る人もいれば、平山氏のように評価をする方もいる、賛否両論だったそうですね。
話が逸れました。


これは恋ではなくて ただの痛み、という歌いだしから素晴らしい。
都会の夜の喧騒へ静かに広がっていく、乾いたペシミズム。

歌詞に出てくる『いとしのエリー』はご存じサザンオールスターズのヒット曲。
女性コーラスが、同曲のワンフレーズをさりげなく引用して歌うところもイイ。
因みに、この曲を書いた桑田さんの出身は青山学院大学、そして活動していた軽音サークルの『ベターデイズ』には小西さんも在籍していました(時期は少し異なりますが)。高浪さんは小西さんの一年後輩。同じくベターデイズに当時在籍していた故・宮田繁男さんと斉藤 誠さんはこの時期(ソニー時代)のピチカートのレコーディングの殆どに参加しています。そしてそして桑田さんが嘉門雄三名義で出したライブアルバムでもこの2人はバックで演奏しています。斉藤さんは今でもサザンのライブでギターを弾いています。
余談でした。

話が逸れました。
なんだかんだと長い時間連れ添ってきた女性への改めての愛の告白の歌である『いとしのエリー』が破綻を来している恋人同士の間を流れていく悲しみ。

そして、
シリアスな恋の世界を歌うヴォーカリスト、
田島さんによる、情感を抑える、という表現での熱唱。

アレンジも素晴らしい。
シンセベースの重苦しくもクールなグルーヴ。
中山 努氏によるハモンドオルガンのうねりとリズム。
タイトでシリアスで秩序のあるアンサンブル。
終盤へ向けて、転調が繰り返され、徐々に熱を帯びていくサウンド。
それまで淡々と唄われていた田島さんの Woo Baby Baby ~ のフレーズが、遂にスモーキー・ロビンソンの如へと憑依していく寸前に楽曲はさりげなくフェイドアウト。

そして8年前、
ライムスターの宇多丸さんのプロデュースによる、 Full Of HarmonyのMIHIROさんの歌唱での『これは恋ではない』のカバーはそれはそれは“”良いモノでした。



これぞ世代を超えたRESPECT。

続いてA面は『惑星』。
小西さんの作詞、田島貴男さんの作曲で、名作アルバムの冒頭を飾る一曲。
マーヴィン・ゲイの『What's happening brother』を髣髴とさせる神々しきサウンド&オーケストレーションから引き込まれます。
まさに宇宙のファンタジー。
この曲も切なく、儚く、もの悲しい、うら悲しい。
とにかく田島さんのメロディ、歌唱の非凡さに舌を巻きます。
いやはや。
スケールの大きなサムシングを感じさせます。
女性コーラスの伊集加代子さんのお馴染みの美声、もどこまでも高く広がります。
『月面軟着陸』での弦楽四重奏によるバージョンも素晴らしいですよね。

この時代のスタジオレコーディングの音響の豊かさも感じます。

『これは恋ではない』は『月面~』ではヒップホップ調にリアレンジされて、当時ユニコーンの『服部』で世間を賑わせていた奥田民生さんが客演をしてラップを披露していました。
この縁で『PTA~光のネットワーク』のアレンジを後に小西さんが手掛けることになります。

この時代の音楽がやっぱり楽しかったなぁ。
ユニコーンもピチカートもフリッパーズも、元春も達郎さんもサザンも、アレコレ連鎖的に思い出しちゃいます。
多感な頃に出会った作品は一生モノです。

改めまして、『ベリッシマ!』。
昨年、新装リイシューされたCDにはノーナ・リーブスの西寺郷太さんがライナーノーツを手掛けられていました(『カップルズ』ではカジヒデキさんが)。西寺さんと同い年にあたります。だから90年代、ともに大学時代にこのアルバムを愛聴してらしたんだなぁと共感しました。
でもこのアルバムを聴き返した数だけは西寺さんに負けていないと思います。

さて、
『カップルズ』は小西さん、高浪さん、鴨宮さんの3人による楽曲で主に成立していました。
『ベリッシマ!』では小西さん、高浪さん、そして田島さんによる3人の楽曲で成立していました。
二枚とも、3人の優れた作曲能力を持つソングライターのパワーが拮抗しています。甲乙つけがたいほどに。
そんな関係性で思い出すのが、YMO、だったり、はっぴいえんど、だったり、ナイアガラ・トライアングルのアルバムだったりします。
一つのグループに才能のあるソングライターが3人いれば、やはり存続するのは難しいモノです。
でもそれ故に火花がスパークしたときの威力は凄いです。
そして1995年にリマスターされたときと、同様に今回のリイシュー盤の帯にもこのようなフレーズが書かれています。
《仏作って、魂(ソウル)を探す》
言い得て妙ですね。
仏は仏なんですから、魂を感じるか否かはその人次第。
ちなみに1988年に出たときのオリジナルの帯は『汗知らずスーパースウィートソウル』だった筈。

さてさて、冗長な文章も終わりにしましょう。
本当はこの素敵なシングルのジャケットをブログにアップ出来ただけで満足なのでした。

前回と今回で紹介した二枚のA、B面で鴨宮、高浪、小西、そして田島さんのそれぞれの楽曲が公平にフィーチュアされたコトになります。

イイ曲ばかりですね。
勿論、アルバムの他の曲も負けじと名曲ばかりで、個人的には高浪さんの『カップルズ』(ベリッシマ!収録)もシングルカットして欲しかったです。
『ベリッシマ!』以降の、『女王陛下のピチカートファイヴ』(1989)も『月面軟着陸』(1990)も大好きなので、アナログで出して欲しいなぁ。
きっと二枚組になるだろうけど。買います。ゼッタイ。
『バナナの皮』や『恋のテレビジョンエイジ』を7吋でシングルカットして欲しいなぁ、とか。
ラバーズ・ロック』を12インチで出して欲しいなぁ、とか。
ピチカートマニアの欲望は尽きません。

夜も眠れません。

とにかく、わが青春のピチカートのソニー時代に万歳。

では、

♪ お  や  す  み  な さ い


『これは恋ではない』《MHKL 2》〈作詞/作曲:小西康陽〉(04'45'')【2017】


ベリッシマ

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  • 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックダイレクト
  • 発売日: 2016/08/24
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  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックダイレクト
  • 発売日: 2017/02/22
  • メディア: LP Record



カップルズ

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